ごあいさつ
脳神経外科では脳卒中をはじめ、頭部外傷、脳腫瘍などさまざまな脳の疾患に対して診断、治療を行なっています。診断機器は3.0テスラMRI、64 列CT、脳血管撮影装置(DSA)、脳血流測定装置(SPECT)など最高水準の機器をそろえ、くも膜下出血や脳出血などの緊急疾患の場合でも、脳神経外科専門医がいつでも顕微鏡を用いた手術(マイクロサージェリー)を行なえる体制をとっています。とくに近年著しい進歩を遂げているカテーテルによる脳血管治療を積極的に行い、血管狭窄に対するステント留置術や頭蓋内脳血管用ステントを併用した脳動脈瘤コイル塞栓術、脳動静脈奇形に対する塞栓術など体に負担の少ない治療を行っています。
基本方針
当科は病院の特色である主要診療科としての役割を果たすため、脳神経疾患全般に対し、高度救命医療を24時間体制で対応する。従来からの開頭手術等は勿論のこと、脳血管内手術等の高度な専門医療を科学的根拠と経験に基づき安全な最新、最良の医療を目指す。また脳神経外科領域の予防医学・急性期医療を中心としながらも、循環器内科・整形外科・内科・麻酔科・リハビリテーション科等との連携を蜜にし、総合的な診療に取り組みます。
目標
自己の専門性を深めるため、もしくは新知見を得るために、全国的な学会等への参加又は研究発表を行う。
脳卒中地域連携ネットワークを活用し、地域として患者さんの早期回復に務める。
当院の検査・治療を目的に来院される外国人患者に対しても日本人同様に最善の医療を提供する。
動脈瘤とは
脳の動脈の一部が風船のように膨らんでしまう病気で,多くの場合,血管の分岐部にできます. ときに破れてくも膜下出血になります. 男性よりも女性に多く,年齢があがるにつれ頻度が上昇します.
原因は
生まれつき動脈壁がうすい部分を持っている人ができやすいことがわかっています.遺伝的要素があり,親が動脈瘤を持っていると,そうでない人に比べて数倍なりやすく,また高血圧や喫煙も危険因子として知られています.その他,覚醒剤等の薬物乱用者にできやすいことも知られています.
症状とリスク
動脈瘤があるだけでは症状をきたすことはほとんどありません.動脈瘤の部位によってはそばにある神経を圧迫して目の奥の痛みや物が二重に見える(複視)症状が出ることがありますが,多くは無症状です. しかし破裂するとくも膜下出血となり,きわめて強い頭痛や吐き気,意識障害をきたします.死亡率が高く,緊急手術が必要となります. ただ動脈瘤の破裂率は年間1%程度と言われており,動脈瘤が見つかったからといってむやみに心配することはありません.
くも膜下出血とは?
多くの場合,脳血管にできた動脈瘤の破裂によって起こります.①女性,②家系にくも膜下出血の方がいる,③高血圧,④喫煙者に多いという特徴があります.死亡率の非常に高い疾患で,4割くらいの方が死亡し,治療できた場合でも約半数の方には何らかの後遺症をきたすため,社会復帰できる方は全体の3割程度といわれています.
症状は今まで経験したことのない,殴られたような頭痛が突然起こります.その他,嘔気・嘔吐,意識障害などがあります.麻痺はないことが多いです.
再破裂によって症状が悪化しますので,早急に手術治療が必要です.開頭して破裂脳動脈瘤にクリップをかけるクリッピング術,足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を入れ内側から動脈瘤をつめるコイル塞栓術があります.
動脈瘤に対する治療
従来行われているのは開頭クリッピング:全身麻酔下に頭部の外科手術を行い,破裂予防のためのクリップを動脈瘤にかけるというものです.脳の表面に近い動脈瘤は容易に治療可能ですが,深部にある,あるいは重要な神経のそばにあると難易度が高く,合併症も起きやすくなります.またサイズが大きくなるほどクリッピング術の難易度が増加します.
もう1つは血管内手術です.カテーテルと呼ばれるきわめて細く(直径1mm未満)柔らかいチューブを太ももの血管から挿入し,レントゲンで写しながら脳内まで到達し,動脈瘤内部を塞ぐ金属製の極細の(コイル塞栓術)方法です.クリッピング術が困難な深部や大きな動脈瘤でも治療が可能です.海外ではかなり普及しており,5割~(国によっては)8割程度はカテーテル治療されています.日本でも徐々に血管内手術が増加してきており,現在ではすべての動脈瘤の4割程度に行われています.
治療後の注意点,予防は?
再発する可能性や,新たに動脈瘤ができることがあるので,定期的に検査をしたほうがよいでしょう.高血圧,喫煙は約3~4倍くも膜下出血になりやすいというデータがあります.確実な予防法はありませんが,喫煙しないこと,そして適切な血圧を維持するために塩分,脂肪分を抑えた食事や運動がよいと考えられます.
治療困難な動脈瘤とは フローダイバーター治療
サイズが大きい,あるいは治療の難しい部位に動脈瘤があると,開頭手術のみならずコイル塞栓術が不可能なことがあります.現在ではフローダイバーターという新たな治療器材が日本に導入され,今までは治療できなかった動脈瘤も治療可能になりました.きわめて細い金属ワイヤーをメッシュ状に織り込んだチューブ(ステント)を動脈瘤の存在する血管に留置すると,血流が動脈瘤内部に入らなくなり,内部の血栓化,動脈瘤の縮小・治癒にいたるというものです.動脈瘤の圧迫による症状も改善が期待できます.ただ治療手技の難易度が高く,現在のところフローダイバーターを使用して治療できる施設が限られています(北海道は5施設).
説明動画


患者さん向けのNV疾患啓発サイト
以下のWEBサイトもご覧くださいませ。
あれこれ知りたい脳動脈瘤のこと
フローダイバーター
大型・巨大脳動脈瘤に対する血管内治療 ~フローダイバーターについて
脳動脈瘤に対する代表的な治療には開頭によるクリッピング術やカテーテルによるコイル塞栓術があります.しかしながら,大型・巨大な脳動脈瘤,あるいは物が二重に見える(複視)症状で発症する海綿静脈洞内の脳動脈瘤はそもそもクリッピング術が不可能であったり,コイル塞栓でも症状が改善しない,治癒に至らないことがあります.大型・巨大脳動脈瘤に対する画期的な治療法としてフローダイバーターが注目されています.
現在,国内で使用可能(臨床治験中のものを除く)なフローダイバーターは,2015年4月に薬事承認されたPIPELINETM FLEX FLOW DIVERTER SYSTEM のみです.径10mm 以上の未破裂内頚動脈瘤 で,錐体部から後交通動脈近位に存在するものに対しPIPELINEによる治療適応があります. PIPELINEのサイズ選択には厳密な血管径の計測が必要で,また治療には高度な技術が必要です.




